インターフェアランス

テイクオフ成功の法則



プライオリティー と インターフェアランス(その1)

 

2014年女子WCT第4戦ブラジル大会での1コマ。ノッポのビアンカ(南アフリカ)がタティアナ(ハワイ)の前乗りをしてしまいました。ビアンカとしてはこのライディングで逆転勝利を確信していたはずなのに...

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしま〜、この体格差ってどうよ(笑)。方や超大型、そして方や超小型。両極端のプロサーファーがワンオンワンでマッチアップした結果、こんなハプニングが起きるなんて笑うしかないでしょ。

 

 

結局、ビアンカはこれがインターフェアランス(妨害行為)とみなされてこのヒートに負け、大会もここで敗退しました。この対戦相手のタティアナ・ウエスタンウェブはまだ18歳のガキです。いや、たぶんビアンカがそう思っているはず。つい先日までASPジュニアだったのですから。

 

 

ヒート終了後には普通は敗戦選手のインタビューもあるのですが、なぜかビアンカのはありませんでした。おそらく憤慨していたのでしょう。ガキに負けただけでなく、罠に嵌められたからです。そう、タティアナの罠にハマったのです。その罠とは、近年のプロ大会で導入されたプライオリティー(テイクオフ優先権)を使った罠なのですが。

プライオリティー と インターフェアランス(その2)

 

女子WCT第4戦ブラジル大会ラウンド2で勝利者インタビューに答えるタティアナ・ウェストン・ウェブ(ハワイ)。対戦したビアンカ・ブーテンダーク(南アフリカ)のインターフェアランス(妨害行為)について聞かれ...

 

 

 

 

 

I'm really happy that I made the heat but I'm also kind of bummed that I didn’t win it, like, fair and square. But, I guess, it was a mistake on her part...So, yeah, for her to get an interference, it’s just really unfortunate.

 

タティアナの話す英語は不明瞭で早口なため私にはほとんど聞き取れないのでネイティブに書き起こししてもらいました。要約すると、「勝てて嬉しいけれどビアンカのミスによるものだから実力で勝ったわけではない」といったかんじです。

 

 

 

 

 

 

これは問題のテイクオフシーン。プライオリティー(テイクオフ優先権)はタティアナでしたが、ビアンカがレフト方向には行けると判断したのは明らかです。よく見ればわかりますが、波のピークは両者の間にあるのです。

 

 

そしてテイクオフの直前、ビアンカはタティアナがライト方向にノーズを向けていたのをしっかりと確認しています。ですから、まさかのまさか。演技終盤のカットバックでタティアナを目の前にしたときには唖然としたことでしょう。

 

 

タティアナはインタビューで「ビカンカのミス」とか「ビアンカの不運」とか言ってますが、ビアンカ本人にとっては全くもって聞き捨てならない言葉です。自分がレフトにテイクオフしたのを確認してからタティアナが追いかけるように同じレフトにテイクオフしたのはほぼ間違いなく、18歳の小娘にまんまと嵌められたのですから。

プライオリティー と インターフェアランス(その3)

 

これは男子WCT第4戦ブラジル大会にて、コロヘ・アンディーノ(USA)がトラビス・ロギー(南アフリカ)に対してインターフェアランスをしてしまったシーンです。しかし、自分のプライオリティーを侵害されたからといってトラビス(画面右側)の仕打ちはあんまりですよね。ボードをぶつけて相手を倒してしまうのですから。

 

ともあれ、この例のような明らかなプライオリティー侵害に対してはヒートを勝ち上がる手段として侵害者の進路を絶つことはよくありますが...

 

 

 

 

 

 

ビアンカがレフトにテイクオフするのを確認して自分もレフトにテイクオフするタティアナ

 


レフトにテイクオフしても波のフェイスをキャッチできないのはわかっているタティアナ

 


ビアンカがカットバックしたので鉢合わせになり、妨害行為をジャッジにアピールできたタティアナ

 

 

ビアンカはタティアナがまさかレフトに来るとは思わなかったのです。波のピークは両者の中間だったので、タティアナはライトに、そして自分にはプライオリティーはないけれどレフトに行けると判断しました。あのライディングのモメンタム(勢い)には何の迷いもなかったことが見てとれます。

 

 

 

 

 

 

後日、このシーンが解説者の間で話題になりました。以下はその解説者が話した内容ですが、例によってネイティブに書き起こししてもらいました。

 

She definitely took the initiative to be the smarter surfer in that heat. As you can see, she is looking right, she is looking left, but her opponent giving her the benefit of the doubt that she wouldn’t take the left. That’s a rookie mistake by a veteran.

 

まず、彼はタティアナの賢さを褒めています。ビアンカにとっては「ずる賢い小娘」に違いないのですが、解説者としてそんな表現ができるはずはありません。そればかりか、逆にビアンカを責めています。ベテランの選手がこんな失態をするとは何事かと。

 

 

サーフィン解説者の英語表現は私たち一般の日本人にとってはとても難しく、翻訳には難儀します。

 

give the benefit of the doubt

 

この表現ですが、「疑わしきは罰せず」と日本語訳されるのが普通です。それをこの場合どう解釈すればいいのかです。少し直訳に戻してやると「疑惑を好意的に解釈する」となります。というわけで、「ビアンカはタティアナのことを小娘だからと思って見くびっていた」と言いたいのだと思います。

 

 

She wanted to win just on surfing, but you know what, her surfing has been speaking for itself and you saw her right there doing the smart thing and getting the wave that she needed and taking her opponent out.

 

さらに、「タティアナという選手は勝つためにサーフィンしている」と続けます。つまりは、「まだ18歳だというのにこれぞプロフェッショナル」ということなのでしょう。

 

taking her opponent out

 

これは「対戦相手に勝つ」という意味です。「テイクアウト」はカタカナ英語として馴染みがあるだけに「対戦相手を持って帰る???」となってしまいます。実際には「勝つ」とか「やっつける」という意味もあるのです。余談ですが、英語が聞き取れない最大の原因はそもそも英文解釈すらできていないことなんですよね。



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