恐怖の作田ポイント
「やれやれ、こりゃ特攻隊だな」と田崎が言った。緊張している和男を更に怖がらせようとする田崎が憎らしかった。沖まで延びるテトラポッドの堤防に向かって歩く4人だが、和男の歩調はしだいに遅くなっていった。堤防の先端では大きな波が砕け散り、派手に波しぶきを飛ばしているではないか。無理だと思いながらも足を止めることはできなかった。和男を置いて3人は迷いなく進んでいく。そしてその3人の重力に引き付けられるように和男は波打ち際まで運ばれていた。そのあと人生最大の危機が自分の身に降り注ぐことなど想像すらせず、ただそれが自然の法則かのように。
腰のあたりまで水に浸かったとき、和男の脳が急にフル稼働始めた。そう、スリープ状態にあったコンピューターがオンになった。「CAUTION! CAUTION!」と頭の中で緊急サイレンが鳴っている。「直ちに非難してください!」という指令が和男の脳の中だけで発せられている。ところが客観的には何も危険な状況ではない。一見してそこはサーファーの楽園でしかなく、いたって平和なのだ。自分と自分の周囲にいる連中との危機感の落差に錯乱しそうになった。「助けて」なんて言おうものなら大恥をかくに違いなかった。もし勇気を出して言ったとしても「バカじゃないのこいつ」と思わるだけなのは明白だった。背の届かないところならまだしも、腰まで水に浸かった状態で救助を求めるなんて普通ありえないからだ。しかしその状況は和男にとって間違いなく危険だった。なぜなら、自分の意思が身動きに反映されなかったからだ。沖に向かってなら体はどんどん進むが、岸に後戻りすることができない。
それはかなりヤバい状況だった。とそのとき、大きな白波がやってきて和男を洗った。無抵抗のまま白波の中で転がると、もう両足は地面を確認できなかった。無我夢中でサーフボードの上に這い上がったが、みるみる内に沖の方に向かって流されていった。こんどこそ「助けてくれ」と叫ぼう。意を決したそのとき、目の前で巨大な波が割れた。猛烈なエネルギーで体が巻かれるのを感じながら和男の意識は少しずつ遠のいていった。瞬間的に苦しかったが、海水をがぶ飲みしたあとは逆に不思議な快感があった。「俺は死ぬんだ」と確信しながらも、そのことが全く怖くなかった。
つづく...(この小説はフィクションです)
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